天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

歌集『思川の岸辺』(3)

思川の氾濫(webから)

 猫の歌は、『滴滴集』(2004)の38首を1首越えて39首ある。今回の歌集に最も多い。全542首の内、7.2%を占める。内15首を以下に紹介しよう。


  ゑさ食はなくなりたる猫は診てもらひ虫歯のために
  食はなくなりぬ


  バスタオルでぐるる拘禁しスポイトで抗生物質飲ます
  ああ大仕事


  引つ掻かれ血だらけとなりしわが指は明日の朝には
  なほらねばならぬ


  猫形(ねこがた)のいのちひとつを抱き寄せて沈む夕陽を
  あるとき見つむ


  シャンプーを浴びて気狂ふ猫よ猫なんとかなるさなんとか
  なるさ


  山嵐のごとく濡れ毛を立てながら部屋の片隅にうづくまる猫
  小刻みに震へる猫はただならぬ天変地異に遭(あ)ひたるごとし
  皆既日食きはまるころにひたひたと時間をかけて水をのむ猫
  ストーヴの前にしづかに端坐してなげくとてなき猫の晩年
  前足をおのが首輪に突つ込んで歩けなくなりし猫をわらへる
  春のこゑささやくやうに降りながら慢性鼻炎の猫と暮らせる
  五つある椅子のひとつに猫座るかならず同じ椅子に座れり
  鍵かけて閉ぢ込めきたる猫おもふ炎暑のみちをあゆみゆきつつ
  ぎやつといひて驚くさまや掃除機に眠れる猫の尻尾を吸へる
  クーラーをつけたまま家出でて来ぬいのちおとろへし老猫のため


 ちなみに今回迄の全九歌集に現れた猫の歌から、小池さんの家の猫の来歴を推定できそう。詳細に調べてはいないが、初めは野良猫が小池さん宅に、寄りつくようになった。それが一代目か。その猫が亡くなって現在は、二代目か。小池さんに直接聞けば、すぐ分ることだが。