吾輩には戒名も無い(7/8)
小鳥との別れ 家庭で飼うことの多い代表的な小鳥に、文鳥、インコ、カナリヤなどがいる。文鳥はインドネシアの固有種で、日本には江戸時代初期から輸入されていたとされる。雛から育てると人に慣れ、手に乗り移ってくる。これを手乗り文鳥という。文鳥との別れに関する歌を紹介しよう。
父親となれず死ぬ身に文鳥のひなを飼ふこと許されたりき
島秋人『遺愛集』
刑死待つ身が愛(いと)しめば児の如く文鳥掌(て)より
頭(づ)にのり遊ぶ
島秋人、本名・中村覚は、新潟県で強盗殺人事件を引き起こした死刑囚。一九六0年の一審の死刑判決後、一九六七年の死刑執行までの七年間、獄中で短歌を詠みつづけた。彼は獄中で文鳥を飼うことを許されたので、文鳥を友として数多くの短歌を作った。『遺愛集』には二十七首がある。右掲二首から、家族愛に餓えていた生涯が覗える。
むかし逃げし文鳥があけがたの夢に来て父の行方を囁きてゐき
小沢一恵
作者の父は行方不明になっているようだ。文鳥が逃げたのは、父の後を追ってのことだったのか。あけがたの夢でそのように思った。