海のうた(9)
一首目は、作者自身か別人が潮干狩りでとった貝の袋を、コインロッカーの中に入れたのだろう。あるいは海水浴後の水着かも。二首目は下句が共感しにくい。海と一億年からすぐに読者に思い当る事象がないので、ああそうですか、で終り。五首目は、言い得て妙。七首目は、悲惨な切ない思い出。
新宿駅西口コインロッカーの中のひとつは海の音する
山田富士郎
氷菓の棒くはへて海に向き立てり一億年ほど生きた気がして
山田富士郎
夜明け前 誰も守らぬ信号が海の手前で瞬いている
穂村 弘
その下に海死なしめし都市のすみ鋭角をみせ倉庫ねむらず
市原志郎
ビルを吊り上げるように雲が動く海へ捨てるつもりだろう
宮崎信義
ビル街の遠き彼方に海見えて不意に異邦のこころ拡がる
森 和代
輝きし虹遠見しは幼き日海見ゆるまで焼かれし街に
中井慶子