滝のうた(5/6)
滝音はさわがしからず自らのいのちを垂るる如く落ちくる
宮岡 昇
やはらかく体ひろげて落つる滝一断崖を白く覆へり
高野公彦
しんしんと体のなかの風ぐるま回りて我は滝に近づく
高野公彦
ちりちりと岩を這うありとびはねてしぶきとなるあり滝の
おもては 沖 ななも
かぎろへば滝つ瀬やさしみづからを滝と知りつつ砕けゆくなり
水原紫苑
はるかなる滝壺にみどりの水注ぎ長き会議に孤なるときをり
小野茂樹
垂直の光となりて落つる滝めぐりの音を統(す)べて轟く
田中子之吉
滝を落つるげにうつくしき蝶の羽根雷雨は誰の言葉であるか
山田富士郎
以上のいくつかの歌には、滝の擬人化表現がある。また「しんしんと」「ちりちりと」といったオノマトペも使用している。小野茂樹と山田富士郎の作品は、取り合わせの歌であるが、前者に比べて後者は比喩を含んで幻想的。なお滝壺とは、滝が落ち込んで深い淵となった所。