川のうた(2)
飛鳥川(明日香川)は奈良県中西部を流れる大和川水系の一級河川。流域は古代より開けた地で、古歌にもしばしば詠まれた。ただ奈良を訪れて初めて見た飛鳥川は、川幅が狭く小川のようで拍子抜けするほどであった。二首目の涙川とは涙の川で、物思いするときに涙があふれ流れるようすを川にたとえた語。ちなみに『古今和歌集』には、「涙川」が詠み込まれた和歌が八首もある。
世の中は何かつねなる飛鳥川きのふの淵ぞ今日は瀬となる
古今集・よみ人しらず
行く人も留まる袖の涙川みぎはのみこそ濡れまさりけれ
土佐日記・紀 貫之
みよし野の大川水のゆほびかにあらぬものゆゑ浪の立つらむ
古今和歌六帖・よみ人しらず
かはとみてわたらぬ中に流るるはいはで物おもふ涙なりけり
後撰集・読人しらず
瀬を早み岩にせかるる滝川のわれても末にあはむとぞ思ふ
詞花集・崇徳院
散りかかるもみぢ流れぬ大井川いづれ井堰(ぜ)きの水のしがらみ
新古今集・源 経信
かはあひやまきのすそ山石立てて杣人(そまびと)いかに涼しかるらん
山家集・西行