天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

神を詠む(9/9)

  神杉の直ぐなる幹に晩秋の海より反る光があそぶ
                     八重嶋勲
  せせらぎは水の合唱か森林をいま神渡り木も紅葉せり
                     阿部洋子
  ちちははの声を聴かんと神(み)渡(わた)りの亀裂するどき氷湖に来たり
                     田村三好
  遣りがたきかなしみ持たば聞きに来よ日向の国の大鳴(おほなる)神(かみ)を
                     伊藤一彦
  藁の馬に機織(はたおり)の神乗りゐしや思ひおぼろとなりて遥けき
                     内田紀満
  土の神・花の神・草の神・クエビコサマ皆わが友と思ひゐたりき
                     槙弥生子
  水分(みくま)りの神の為業か山裾の洞より湧くは手も凍むる水
                     水田 明

 

 一首目の神杉は、神域にある神が降臨するという大杉で、注連縄が張ってある。各地の神社でよく見かける。
 二首目、三首目は御神渡りを詠んでいる。これは、冬季の寒冷地で,湖面に一部盛り上がった氷堤が見られる現象で、長野県の諏訪湖のものがよく知られている。
 伊藤一彦の歌にある、大鳴神とは、雷鳴を指す。日向の国・宮崎県は神話の国。
 槙弥生子の歌のクエビコサマとは、久延毘古のことで、日本神話(大国主の国造り)に登場する神。「クエビコ」は「崩え彦」、体が崩れた男の意で、雨風にさらされて朽ち果てたかかしを表現したものという。
 水田明の歌に出て来る水分りの神とは、文字通り水の分配を司る神である。「くまり」は「配り(くばり)」の意味で、水源地や水路の分水点などに祀られる。

 

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諏訪湖御神渡り(webから)