冬を詠む(4/9)
喨々(りやうりやう)とひとすぢの水吹きいでたり冬の日比谷の鶴(つる)のくちばし
北原白秋
街をゆき子供の傍を通る時蜜柑の香せり冬がまた来る
木下利玄
ひめうづの葉のあをあをと茂るとき荒れたる庭に冬は来むかふ
柴生田稔
嶺の雪の林のうへにかがやきてこのあけぼのを冬来るらし
小田観蛍
あたらしく冬きたりけり鞭のごと幹ひびき合ひ竹群はあり
宮 柊二
かがやかに金の朝日は射しとほり日の棲所(すみか)なる冬の竹群
宮 柊二
冬の皺よせゐる海よ今少し生きて己れの無惨を見むか
中城ふみ子
柴生田稔の歌: 「ひめうず」は、キンポウゲ科に属する多年草で、畑や人家周辺から山間部まで広く見られる。
小田観蛍は、岩手県で生まれ北海道に移住した。象徴主義からきびしい風土を詠んだ。太田水穂の「潮音」創刊に参加している。86歳で死去。
中城ふみ子の「無惨」が何を意味するかは、彼女の凄まじくも短い31年の生涯を知る必要がある。(詳細はhttps://ja.wikipedia.org/wiki/中城ふみ子 を参照。)掲載の一首は、乳癌の治療で札幌医科大学付属病院に通院する列車車中から冬の石狩湾を見て、迫りくる死を前にして、残された己の人生、そして死を直視していく覚悟を詠んだものという。