死を詠む(2)
とへばいふとはねば恨(うら)む武蔵(むさし)鐙(あぶみ)かかるをり
にや人は死ぬらん 伊勢物語
恋しとはたが名づけけむことならむ死ぬとぞ唯にいふべかりける
古今集・清原深養父
恋しきに命をかふるものならば死にはやすくぞあるべかりける
古今集・読人しらず
徒らにたびたび死ぬといふめれば逢ふには何をかへむとすらむ
後撰集・中務
恋ひわびて死ぬてふ事はまだなきに世の例(ためし)にもなりぬべきかな
後撰集・壬生忠岑
こひしさに死ぬる命(いのち)をおもひいでてとふ人あらばなしとこたへよ
大和物語・読人しらず
ひと知れぬ恋にし死なばおほかたの世のはかなきと人やおもはむ
後拾遺集・源 道済
今日死なばあすまで物は思はじと思ふにだにも叶はぬぞうき
後拾遺集・源 高明
一首目に関して。武蔵にいる男が、京にいる女の元に、「申し上げれば恥ずかしい。申し上げないのなら苦しい」と書いて、上書きに「武蔵鐙」と書いて寄こしてから、音信不通になってしまったので京から女が次の歌を贈った。
武蔵鐙さすがにかけて頼むには とはぬもつらし とふもうるさし
(武蔵鐙は、鐙につける金具(さすが)にかけるように、さすがに当てにするには、
安否を尋ねてこないのもつらいし、安否を尋ねてくるのもわずらわしいもの。)
これを見て男は耐え難い気持ちがして、この一首目を詠んだという。