死を詠む(10)
殷々と夜空を迫るとどろきに死すべきたれかまた選ばれし
小野茂樹
丁寧に咀嚼してゐし老人の死は痕もなく冬晴れつづく
小野茂樹
母は死をわれは異なる死をおもひやさしき花の素描を仰ぐ
小野茂樹
死をうたふうたみづみづしとほざかりゆく少年期・幼年期の朝
小野茂樹
ひとの死をわが生として生くるなきか夜半のマッチは鋭き火を噴けり
小野茂樹
くさむらへ草の影射す日のひかりとほからず死はすべてとならむ
小野茂樹
死にければ妻が身のなせしこと火葬用薪十三把を求め探しける
森岡貞香
くちびるをきつとむすべるが美しと人ら見て言ひぬ死にたるものを
森岡貞香
「死を詠む」シリーズの歌を集めて気づいたことのひとつは、小野茂樹に死の歌が多いことであった。私生活の面で、早稲田大学を中退、恋愛、失恋、結婚、離婚、再婚といった複雑さを抱えていたことに起因するのかもしれない。交通事故のため33歳の若さで死去したのは運命的である。
森岡貞香の一首目は、夫の火葬に際して、薪13把をもとめた、と解釈できる。軍人であった夫は、まだ若かったことが二首目から読み取れる。夫の死に対する感情を抑えて客観描写に徹している点に注目。強いて言えば、夫の死に腹を立てているようだ。