墓を詠む(4/8)
若葉ぬれ窗ぬれ空気しめりくるこの雨に子の墓もぬれゐむ
五島美代子
墓買いに来し冬の町新しきわれの帽子を映す玻璃あり
寺山修司
墓買いにゆくと市電に揺られつつだれかの籠に桃匂いおり
寺山修司
蝶とまる木の墓をわが背丈越ゆ父の思想も超えつつあらん
寺山修司
音立てて墓穴ふかく父の棺下ろさるる時父目覚めずや
寺山修司
妻の骨(ほね)けふ母のほねひと年(とせ)にふたたびひらく暗き墓壙
吉野秀雄
墓石は海べの磯虫の巣のごとき壙がつぶつぶとあり
吉野秀雄
墓石はなにの中心 雪はだらなるひるにおもへる
葛原妙子
冬日沁む墓のおもてや清冽の思ひは走るひとつ生涯
葛原 繁
五島美代子は、〈母性愛の歌人〉と呼ばれるくらい、我が子を愛しんだ。一首目に出てくる子は、長女ひとみのことで、東大生だったが恋愛の悩みの果てに突然に亡くなったという。寺山修司の作品には、フィクションがつきまとうので、どこまでが事実か不明だが、これらの作品群からは、父の墓を買いに行った時の情景・感想のように読める。吉野秀雄は妻と母を同じ年に亡くしたらしい。葛原妙子と葛原 繁の歌は、内容が似通っているが夫婦ではない(妙子の夫は、外科医の輝)。