天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

冬を詠む(8/9)

  冬の砂掌をこぼるるに伝ひくるこの限りなき時のやさしさ
                    尾崎左永子
  戦友のやうに携へ来し夫と冬の渚に照らされてゐる
                    尾崎左永子
  陽光が地上に割れる音のしてこの冬いちばんの寒い日となる
                     菊池良子
  もうだいぶ水面から沈んできたやうなみぢんこの思ひしてゐる冬だ
                    馬場あき子
  見るままに来てゐる冬ぞ カブールの井戸辺に凝る暁の水
                     矢部雅之
  あさまだき山の声聞くしづもりに音あらはなる冬ちかづけり
                     大滝貞一
  裸木の高きところに冬はきぬ亡き人宛の手紙とどきて
                   北久保まりこ
  きはまれる青空に雲ひとつなしカーンと寂しき冬の真日中
                     星谷亜紀

 直喩の歌として、尾崎左永子の二首目、馬場あき子の作品。
 暗喩の歌として、菊池良子、星谷亜紀の作品。
 擬人法の歌として、矢部雅之、大滝貞一、北久保まりこ らの作品。
 矢部雅之は報道カメラマン。この一首は、歌集『友達ニ出会フノハ良イ事』にあるもので、アフガニスタン攻撃の取材でアフガニスタンに行ったおりの作品である。
 大滝貞一の歌: 「山の声」と「音あらはなる冬」との関係がよく分らない。
 北久保まりこの歌: 上句と下句の取合せが詩的。

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