知の詩情(16/21)
第二には、主語の扱い方である。動作の主語を隠すことによる謎かけ。作者以外の主語を明確にせず、その動作だけを述べることで読者を立ち止まらせる。以下は歌集『時のめぐりに』から。
あち等こち等に突きあたりつつ入りきては納簾のひもの鈴をゆすれり
葉鶏頭(かまつか)の一茎(ひとくき)倒し見る見るにめぐりくまなくしのび寄るもの
左前足に細顎(ほそあご)のせてねむるまへ一分間ほどものおもひせり
上句の主語を隠して下句で別の主語を出す方法も不思議感を醸す。
いにしへに瓦を焼きし跡にきて谷よりのぼるひぐらしのこゑ
あるいは、上句でひとごとのように情景を述べ、主語を結句で明らかにすることで、頷
かせ笑わせる。
食卓にひきがへるのごとむつつりと膨(ふく)れてをればわれは父おや
植木鉢の腹にひたひを押しつけて煩悩散らす猫のねむりは