天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

俳句を詞書とする短歌(1/9)

まえがき
 周知のように、和歌の詞書(題辞、題詞)の役割は、和歌を詠んだ趣意、背景を述べることにあり、万葉集以来よく使用されている。わが国の古典文学においては、この詞書の部分が物語にまで拡張されて、『伊勢物語』や『大和物語』のような歌物語という新たなジャンルが生れた。
 近代以降、詞書は短歌の従属的な位置づけになっていたが、岡井隆に見られるように、詞書の部分に短歌との詩的相乗効果を狙った俳句、短歌、散文詩などを持ってくる作品が出ている。
 本文では、詞書に俳句をもってくる短歌作品について、その効果をみてゆきたい。作品の鑑賞には、俳句と短歌のコラボレーション、交響という観点が必要になる。交響の具合を、省略・充実・転調・対比・反転・展開といった面から吟味することになる。本歌取りを考慮することも有用。作者の意図とは異なる解釈が出て来ても、交響をたのしめればそれでよしとされるであろう。
 岡井隆とは別に、意欲的に俳句を短歌の詞書にした歌人藤原龍一郎がいる。以下では、この二人の作品について見て行く。

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伊勢物語岩波文庫