水のうた(14/17)
一杯の水をしんじつ冷たしと飲みゐるときにこの救あり
遠山光栄
*下句の「この救」が何を指すか、この歌だけでは分からない。
朝明けとなりゆくひかり人をりて硝子器より硝子器に水移しゐる
真鍋美恵子
*水を移している人は、屋外にいるようだ。
夜半ながら起きて一杯の水を飲むある係累を断つ思ひにて
佐藤通雅
*下句の「ある係累」が不明だが、重苦しい決断が感じられる。
壁むこうの家族とのかすかなつながりか蛇口をとおる朝の水音
下南拓夫
口つけて山に水飲む喜びもやうやく無くて我老いほけぬ
落合京太郎
上空ははるかに冷たきみづあらむ水屋にみづを使ひゐるとき
人見邦子
*水屋はここでは、台所と思ってよいだろう。
ゆたかなるものよ壺より平鉢へ移されし水おだやかに澄む
山本かね子
*水の柔軟な性質に、人間のあらまほしき性質を重ねているようだ。