感情を詠むー「苦し」(3/3)
花見ればそのいはれとはなけれども心のうちぞ苦しかりける
山家集・西行
*「桜の花を見ると、これと言った理由は無いのだけれども、心の中が苦しい
ことであった」
歌の意味は簡明だが、桜の花にこがれ修行した西行の精神生活がしのばれる。
なほざりの空だのめとて待ちし夜の苦しかりしぞ今は恋しき
千載集・殷富門院大輔
うちはへてくるしきものは人目のみしのぶの浦のあまの栲(たく)縄(なは)
新古今集・二条院讃岐
*栲縄: 楮こうぞなどの繊維で作った縄。一首の意味は、
「海岸で海人が長くのばす栲縄の労働が苦しいように、人目を忍ぶ私の恋も
長く続いて苦しい。」
藻塩やくあまの磯屋のゆふ煙たつ名もくるしおもひ絶えなで
新古今集・藤原秀能
*「煙たつ」までは、名に掛かる言葉。言いたいことは、「たつ名も」以下である。
おしかへしものを思ふは苦しきに知らず顔にて世をや過ぎまし
新古今集・藤原良経
*「おしかへしものを思ふは」とは、くり返しあれこれものを思う、という意味。
苦しくも降りくる雨と云ひしかもこの秋の雨身にしみにけり
尾山篤二郎
こころ粧(よそ)いて混沌(カオス)のなかをゆくことも八十日(やそか)百日(ももか)
と経(ふ)れば苦しも 木俣 修