天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

五感の歌―嗅覚(3/5)

  この真昼炭にまじれる古き葉のけぶるにほひを寂しみにけり
                      島木赤彦
  桑畑の畑のめぐりに紫蘇生ひて断(ちぎ)りて居ればにほひするかも
                      斎藤茂吉
  あらしのあと木の葉の青の揉まれたるにほひかなしも空は晴れつつ
                      古泉千樫
  峡ふかき宿駅(まや)に兵とまり馬にほひ革の匂ひの満ちにけるかも
                      中村憲吉
  川芎(せんきゆう)の葉を揉めば発(た)つ薬の香この香は知れり母のにほひなり
                      植松寿樹
*川芎は、漢方薬に用いる生薬の一つ。セリ科センキュウの根茎を湯通し
 して乾燥したもの。補血、鎮静、鎮痛、鎮痙などの作用がある(「漢方薬
 生薬・栄養成分がわかる事典」より)。

 

  広土間に入りて吹き消す提灯の蝋のにほひをときの間嗅ぎつ
                      植松寿樹


  ゆふぐらき蚕飼の部屋に、
  桑の葉
  匂ひをふかく嗅ぐも。侘しく       石原 純

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蚕飼 (webから)