窓を詠む(2/5)
やまおろしのたえず音する窓の中にあやしく残るよはの灯(ともしび)
細川幽斎
*作者は、部屋の中に点る夜半の燈火を、嵐に音立てている窓を通して
見たのだろう。
窓に窓むかひ合ひたる大船の一夜どなりのなつかしげなる
大隈言道
*大船が二隻あって隣り合っているのだろう。一隻だと窓に窓が向かい
合っている情景は想像できない。
うつせみのわが息(そく)息(そく)を見むものは窗(まど)にのぼれる
蟷螂(かまきり)ひとつ 斎藤茂吉
*窓にとりついているカマキリを室内から見て詠んだ。上句が生々しい。
外出せず日々を過していくたびも窓をあけてはむかひ観る山
岡 麓
窓により仰げば見ゆる裏山の尖(さき)ほそ冬木はさびしきかもよ
木下利玄
カーテンを引かざる窓のただ暗く寒潮(さむじほ)の音も今夜きこえよ
柴生田稔
よき月と
賞めて通れる人のあり、
よき月夜かと窓を見上ぐる。 渡辺順三
遠く来てひとりめざむる朝はよし千島に向ふ窗あけはなつ
橋本徳寿
*千島は、千島列島のことで、北海道東端からカムチャツカ半島南端に
連なる列島。国後(くなしり)・択捉(えとろふ)・得撫(うるっぷ)・
幌筵(ぱらむしる)・占守(しゅむしゅ)などの島からなる。