天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

小池光歌集『梨の花』(8/11)

■ユーモア、ウィット(ユーモア+批評)、ペーソス
 和歌短歌の持つ情感の基本にユーモア(人の心を和ませるようなおかしみ)とペーソス(そこはかとなく身にせまる悲しさ)がある。これらの感情を表現するには、品詞の使い方に工夫が必要である。小池さんの短歌では、特にユーモアをまとった作品に特長があり、文節や言葉の取り合わせ、副詞や助詞・助動詞の配合に惹かれる。

  足の爪赤く塗りたる姉むすめ青く塗りたる妹むすめああ
  父の日にむすめがくれし甚平(じんべい)を妻の遺影のまへに置きたり
  元日の郵便受けに入りてゐし「ピザ」のチラシの沁みてかなしも
  みちばたに灰皿あれば立ちどまり一本吸へり 春がくるかな
  ひとふくろの蜜柑のなかに黴(かび)ふける一個ありたりさながらにわれ
  あんぱんの臍(へそ)を発明したる人円満なる晩年を送りたりけむ
  パンダの縫ひぐるみひしと抱きしめて百四歳の母の誕生日
  すがすがとわれは居るべし雪ふる夜(よる)再婚話のひとつとてなく
  金之助といへる金魚を飼ふひとと新年会にて挨拶かはす
  しあはせな「いちご大福」の看板もバスの中よりわが眼はとらふ

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パンダの縫いぐるみ