小池光の短歌―ユーモア(12/26)
◆「われ」の描写(客観視・見立て)2/4
加須(かそ)の次ぎ久喜(くき)にとまれる急行にわれとあたまの毛帽子と乗る
『思川の岸辺』
四十九個の疣(いぼ)の一つをわれ押してはなれたところのテレビを消しつ
メイラックス一時間後に効いてきてわれはしづかな夕べをあるく
お父さん、とこゑして階下に下りゆけば夕焼きれいときみは呟く
冷房といふ密室にたてこもりうたの製作にあぶら汗ながす
干すまでは洗濯たのし取り入れてたたみてしまふときにひとりぞ
安芸の宮島を秋の宮島と長い間(あひだ)おもひをりけりわらわばわらへ
みづからに作りし生姜焼食ふときにいただきますと声に出でたり
家裏のどくだみ群落はきみを苦しめききみなきいまはわれが苦しむ
いのちあるものの辛さに電柱の陰に入りてバスを待つなり
いちにちをきよらにあれと願へれどすでにたばこを吸ひてしまへり