子を詠む(6/6)
すこやかに寝息をたててゐる吾子よ争ふときのやがて到るべし
山中律雄
一つ皿の魚を箸もてほぐし合ふ傍への吾娘も稼ぐ日近し
井田金次郎
父亡くて育ちし吾と母なくて生ひ立つ吾子といづれ寂しき
高橋誠一
抱かれて眠らんとする末の子が吾の胸毛の白さを言ひぬ
宮岡 昇
癒ゆるなき子の行く末を見届けん朽ちてまなこの洞となるとも
稲垣道子
吾子とわれ肩車とふかたちにて魂ふたつ上下にもてり
岩井謙一
柿の木に柿の実われに吾子といふかなしき黒きふたつの頭
中地俊夫
一日の吾子の動作をこまごまと語りゐたるが妻寝息たつ
神作光一
ひよろひよろと一輪車こぐわが子見ゆ木枯吹ける夕べの坂に
鵜飼康東
母さんと呼ぶ声のして振り向くも吾子は遠きに住み居るものを
土屋美恵子
我が膝と膝のあひだを滑らかに魚跳ぬるごと吾子の生れ出づ
高木佳子
[注]先の「母を詠む」シリーズと同様に「子を詠む」シリーズのいずれの作品も心に沁みるものであった。情景を思い描くと涙がでる。