天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

楽器を詠むー鼓(つづみ)

 律令時代には陰陽寮の漏刻を使って時を計り、時守が鼓(つづみ)・鐘をならして時刻を知らせた。平安時代末期以降、太鼓の片面だけを手で鳴らす楽器として小鼓が使われるようになった。 

  時(とき)守(もり)の打ち鳴(な)す鼓数(よ)み見れば時にはなりぬ逢はなくも怪(あや)し
                    万葉集・作者未詳
*「時守が打ち鳴らす太鼓の音を数えてみると もう時間のはずなのに、まだあの人に逢えないのです。 どうしたのでしょうか。」

  高尾寺あはれなりけるつとめかなやすらひ花と鼓うつなり
                      聞書集・西行
*高尾寺は、京都市右京区にある神護寺のこと。やすらひ花は、高尾寺の法華会で一時期行われていた鎮花祭。桜の花びらが疫病を広めるという考え方があった。
「高尾寺では趣深いお勤めが行われるなあ、「やすらい花」とはやして鼓を打つ音が聞こえる。」

  月にうつ大城(おほき)の鼓しばしまてくだちゆく夜を誰かをしまぬ
                        加納諸平
*「くだちゆく」は、時間がすぎる、衰えゆく、末になる、という意味。

  落ちてゐる鼓を雛に持たせては長きしづけさにゐる思ひせり
                       初井しづ枝
  神遊びきけばほのけし追い鳥の声の風なす鼓打つなり
                       馬場あき子
*神遊びとは、神前で歌舞を奏すること。「追い鳥の声の・・・」は、歌舞の内容に關係していよう。

  小鼓の胴は桜の蒔絵にてプホプホポポと打てば魚啼く
                       馬場あき子
*「魚啼く」が唐突。小鼓の音が魚の鳴き声に聞えたということか? 蒔絵の中に魚が描かれていたか? あるいは、曲が魚に関係するものであったか? 周知のように馬場あき子は、喜多実に入門、能に対する造詣が深い。小鼓を打つことは日常のこと。


  ひび荒れし掌(て)にちようちようと鼓(こ)を打てど貧しき音は必ず出すな
                       富小路禎子
*たとえ貧しい生活をしていても、鼓を打つ時は、決して貧しい音を出してはならない。鼓は高貴な楽器だ、との思いがある。

  少女打つ鼓は鳴りわれの胸は鳴る少女のこころわが心超ゆ
                        岩田 正

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小鼓 (webから)