天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

身体の部分を詠むー髪(5/13)

  この額(ぬか)ややすらはぬ額 いとしみのことばはありし髪くらかりき
                     山中智恵子
*額が気に食わない、人が可愛いと言ってくれた髪も暗い、と感じた。

  わがゆめの髪むすぼほれほうほうといくさのはてに風売る老婆
                     山中智恵子
*「むすぼほれ」とは、自然に結んだ状態になる、あるいは鬱陶しい状態 を意味する。結句の「風売る」は何を比喩するか不明。夢のなからしいので、なんとでも言えるか。

  月下飛髪立ちつくすともうつそみの通夜に走らぬわれは人かは
                     山中智恵子
*通夜に行かない自分を、人でなしと責めているようだ。ただ悲しみは「月下飛髪立ちつくす」ほどなのだが。

  まふゆの夜月差す廊下尽きしかばわれ銀髪となりてたたずむ
                      葛原妙子
*月差す廊下が行きどまったので佇んだこと。髪は月光で銀に光った、という。

  硝子戸に嵐閃き髪洗ふわが専念はふかしぎならむ
                      葛原妙子
*嵐の稲光が硝子戸に閃いているのに、髪を洗うことに専念している自分。

  洗ひたる髪をたばねて切らむとす髪ことごとく影なりしかな
                      葛原妙子
*洗い髪を束ねて切ろうとすると髪が影に見えたこと。

  をとめはその黒き髪を縄状に編みたり古き墳(はか)訪ひゆくと
                     真鍋美恵子
  その髪の暗くしあればみづうみに対きゐる女はみごもるならん
                     真鍋美恵子

 山中智恵子の歌は、三首とも自己否定的で暗い。
 葛原妙子の歌三首は、自分の行動を不思議がっているようだ。
 真鍋美恵子の二首は、心情がよくくみ取れて共感できる。

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洗髪