身体の部分を詠むー髪(9/13)
ひと月にひとたび髪を浄めつつ老婦老いゆくここの寮舎に
遠山光栄
*上句は、月に一回髪を洗うということではなく、理髪店で散髪するということと理解したい。
帽子とり辞儀し互に髪の毛のすくなきを知り笑みて別るる
長谷川銀作
*よく分る。
洗ひたる髪やはらかく匂はせつつ思ひをりフォスター三十八歳の死
瀧沢 亘
*スティーブン・コリンズ・フォスターは、19世紀半ばのアメリカ合衆国を代表する歌曲作曲家。メロディの親しみやすい黒人歌、農園歌、ラブソングや郷愁歌が多い。「アメリカ音楽の父」とも称される。享年38。
冬の日の雲雀のこゑを聴きゐしが少年の髪しろがねとなる
大野誠夫
*下句が唐突で不可解。雪が降ってきたのか、雲雀の声を聞いているうちに老人になった、というのか。「冬の日の雲雀」も尋常でない。
白髪を洗ふしづかな音すなり葦切やみし夜の沼より
寺山修司
冬の朝つめたき陶となる髪に従容と来てひとは唇触る
佐竹彌生
海のこと言いてあがりし屋上に風に乱れる髪をみている
岸上大作
*片思いに終わった女子学生と一緒の場面であろうか。