蕪村俳句と比喩―直喩(1/4)
直喩は、他のものにたとえて意味や雰囲気を表す時、類似を示すことば「ごとき」「ような」などを使用する修辞法。蕪村においては、「・・・がほ(皃、顔)」という例が多い。
歳旦をしたり皃(がほ)なる俳諧師
*歳旦の句をしてやったりと得意満面でいる俳諧師を詠んだ。
耕(たがやし)や五石(ごこく)の粟(ぞく)のあるじ皃(がほ)
ねり供養まつり皃(がほ)なる小家哉
蝸牛(ででむし)のかくれ顔なる葉うら哉
殿(との)原(ばら)の名古屋皃(がほ)なる鵜川哉
*長良川の鵜飼見物の面々は、見るからに尾張藩士の名古屋顔という顔付で鷹揚な態度だ。
後家の君たそがれがほのうちは哉
子(こ)狐(ぎつね)のかくれ皃(がほ)なる野菊哉
先刈(まづかり)て雁待(まち)顔(がほ)の門田かな
一(ひと)つ家(や)のかしこ皃(がほ)なり蕎麦の花
*一軒家ながら蕎麦の花を咲かせ、しっかり生活している様子を「かしこ皃(がほ)なり」と比喩。
窓(まど)の人のむかし皃(がほ)なるしぐれかな
御火たきや犬も中々そぞろ皃(がほ)
*御火たき: 京都の神社で十一月に行われる火焚き祭り。句は、この日のそわそわした様子を犬のそぞろ顔で暗示した。
乙鳥(つばくら)や水田の風に吹かれ皃(がほ)