天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

食のうたー食器(1/2)

 鍋、椀(もひ)、荀(け)、皿、包丁、土瓶、茶碗、膳、匙、グラス など。日本人の食生活では、鍋が基本的な調理用具だった。

椀(もひ): 水を盛る器。 荀(け): 物を入れる器。食物を盛る「飯(いひ)荀(け)」をいうことが多い。

 

  下野三毳(しもつけのみかも)の山の小楢(こなら)のすまぐはし子ろは誰が荀(け)か持たむ

                   万葉集・東歌

*三毳の山: 栃木県南部佐野市東方の山。

すまぐはし: す+まぐはし。「す」は普通の程度を超えている意を添える。「まぐはし」は、見た目に美しい。

「下野の三毳の山に生い立つ小楢の木、そのみずみずしい若葉のように、目にもさわやかなあの子は、いったい誰のお椀を世話することになるのかなあ。」(伊藤博万葉集 三」による)

 

  雨しぶく道べに食器洗ひ居り解放さるる喜びもなく

                     小暮政次

*何から解放されるのか不明。

 

  枕べに青き皿あり果物あり此の安けさは涙をさそふ

                     小暮政次

*作者は病気で寝ているのだろう。家族が枕辺に果物を用意してくれたのだ。ただ作者は長寿を全うした。享年93 。

 

  エメラルドグリーンの空は燦爛たり厨に鍋がころがりやまぬ

                    岡部桂一郎

  みつめゐるグラスに映り凜凜しくあれ枯葉色なす孤りの老婆

                     畑 和子

*グラスに映ったのは、作者の姿であったか。

 

  泥のごとき茶殻が沈澱するを待つ手の椀(もひ)はわが危ふきこころ

                    上田三四二

  いつとなくわれの纏(まと)へる影に似て敏(さと)く曇りを張る銀の匙

                     大西民子

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三毳山 (WEBから)