住のうたー家具・調度(3/5)
夕づく日差すや木立の家の中一脚の椅子かがやきにけり
岡部桂一郎
*家とその中を外から眺めていたのだが、下句が家の幸福を想わせてうれしい。
この家に主人(あるじ)は留守と知りし時一脚の椅子輝きにけり
岡部桂一郎
*主の留守の部屋を詠んだのだが、この作品も下句に作者の感情がよく見て取れる。
さつきまであなたの座つてゐた椅子に馬具のかたちの夕陽差したり
岡井 隆
革(あらた)まる何あらむとも思はねどわづかずらしてみる椅子の位置
坂出裕子
説得をせむと誘(いざな)ひ来し椅子にまづ緩やかに身をば沈めつ
森山晴美
*上句は、作者の心中に妥協してもいいかという考えがあることを暗示していよう。
芝の上のわが椅子倒し昨夜またさびしく八ヶ岳嵐ゆきしか
上野久雄
置きわすれし椅子に二十日の月照りて人いこひをり透きとほりつつ
久保田フミエ
*二十日の月: 二十日月(陰暦20日の月。特に陰暦8月についていう。更け待ち月。)