人・人間を詠む(5/7)
秋草の道に久しき夕あかりここすぎてゆく人の吉凶
岡部桂一郎
人はみな悲しみの器(うつは)。頭(づ)を垂りて心ただよふ夜の電車に
夕かぜのさむきひびきにおもふかな伊万里の皿の藍いろの人
玉城 徹
さくらばな陽に泡立つを目守(まも)りゐるこの冥き遊星に人と生まれて
山中智恵子
ホモ・サピエンス瞳を醒ましてよ秋森の上にほがらに月昇りたり
築地正子
*ほがらに: 「ほがらかに」に同じ。
人といふこのふたしかな多面体気まぐれにして蜥蜴と遊ぶ
築地正子
人間の天敵は人間であることを誰も教へてくれぬまま老ゆ
築地正子
*築地正子: 戦後、二十六歳の時に熊本県長洲町に両親と共に移り住み、五十年以上をそこで土を耕しながら過ごした。人間嫌いとも言われるほど世俗を退け、長洲町の豊な自然との交感や老いを題材に、彼女独特の美学や哲学に基づいた清新な歌風の作品を残している。終生独身を通し、八十六歳で死去。(webから)