手紙のうた(2/4)
白い手紙がとどいて明日は春となるうすいがらすも磨いて待たう
斎藤 史
*作者の代表歌の一首。
きざし来る猜疑を秘めて書く手紙明るき雨と書きつつ脆し
大西民子
声しぼる蝉は背後に翳りつつ鎮石(しづし)のごとく手紙もちゆく
山中智恵子
*鎮石の由来は、第11代垂仁天皇の勅命により、我国ではじめて伊勢神宮と高千穂宮が創建された際に用いられた鎮め石である、と伝える。この石に祈ると人の悩みや世の乱れが鎮められるとか。一首は手紙が大変重要なものであることを直喩で表現した。
ただ一度書きし手紙を悔めども書きし心をせん方もなし
柴生田 稔
われの身を案じいひくる姉の手紙妹の手紙おろそかにせじ
五味保儀
をさな子は父を忘れてありと言ふ母の手紙を今宵見にけり
松村英一
*幼い子はあなたのことを忘れてしまっている、と妻の手紙に書いてあったのだ。妻子があわれに思えてくる。
友達として書きかはす手紙には空のこと海のことなどに触れずなりたり
石川不二子
白鳥の来しこと告げて書く手紙遠き一人に心開きて