天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

あの世のこと(4/6)

 来世: 三世(前世、現世、来世)の一つで、死後おとずれてくる世。未来世。後世。後生。来む世。

 

  この世にし楽しくあらば来む世には虫に鳥にもわれはなりなむ

                  万葉集大伴旅人

*「現世で楽しく過ごせるならば、来世では虫にでも鳥にでも、私はなってしまおう。」いかにも酒好きの旅人らしい。

 

  浮き沈み来む世はさてもいかにぞと心に問ひて答へかねぬる

                 新古今集・藤原良経

  こむ世まであざむかれても蓮葉(はちすば)の露を玉とは何たのみけむ

                      香川景樹

古今集遍昭の歌「蓮葉のにごりの染まぬ心もてなにかは露を玉と欺く」を踏まえる。

 

  来世あらば濃(こき)色のうつくしき馬 しろつめ草の露にぬれつつ

                      藤井常世

*濃色(こきいろ): 紫根染めを何度も繰り返し染められた黒みがかった深い紫色のこと。しろつめ草: 別名、クローバー。 一首では、目の前のこの世の馬は、あまり美しくないように見えるが。

 

  予科練の名簿にスズキイチローの名はありて来世は如何なる花ぞ

                     藤原龍一郎

  ありもせぬ来世を思うこの次は短歌なんぞはいらぬ人生

                      森本 平

 

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蓮葉