天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

この世のこと(6/16)

  終りなくまして初めなど無きものを人のこの世に降る雪を見る

                       大河原惇行

*上句は、作者の世界観(宇宙観)であろう。

 

  コスモスのほそく群れさく陽のなかでこの世のふしぎな時間と言えり

                        永田 紅

  つばなの野あまりあかるく光るゆゑこの世の伴侶はだれにてもよし

                        日高尭子

*つばな: 茅花。チガヤの花穂。また、チガヤの別名。

 

  花の下黙(もだ)し仰げばこの世とはこの束(つか)の間のかがよひに足る

                        米満英男

*桜の花を見上げた時の一瞬の悟りであったようだ。

 

  散りつくしもう落葉なき陰庭の土見てをりぬこの世のものを

                        福田栄一

  戦ひて倒れるといふことのこの世のいまになされつつあり

                        長沢美津

  まぎれ来しこの世の事とうべなひて千手観音に向ひ立ちをり

                        松坂 弘

*千手観音はあの世にあるものと思っていたのに目の前にあるので、上句の述懐になったのだろう。

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つばな