天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

別れを詠む(5/10)

  春の夜の星のやうなるまなざしの悲しくもあるかとはに別れし

                      佐佐木信綱

  けふ別れまた逢ふこともあるまじきをんなの髪をしみじみと見る

                       若山牧水

  別れては遥けきものか新芽立つちまたを一人今日も歩める

                       古泉千樫

  君をおきて死(しに)のきはにも呼ばむ名はなきを知れども素直に別る

                      原 阿佐緒

*美人の原阿佐緒は、さまざまな恋愛問題を引き起こした。小原要逸、庄子勇、石原純などがいた。小原や庄子とは子供をなした。石原は妻子持ちであった。この歌の君とは誰を指すのか。妻子のもとに帰った石原を指しているように思える。

 

  涙ぐむ母に訣(わか)れの言(こと)述(の)べて出で立つ朝よ青く晴れたる

                       渡辺直己

渡辺直己は、広島県立呉高等女学校に奉職中の昭和12年日中戦争のため応召され、中国に第五師団歩兵第十一連隊陸軍少尉として送られた。この歌は、出征時の母との別れの朝の情景であろう。だが、二年後の昭和14年、中国河北省天津市で洪水により戦死した。

 

  春の雪ふる街辻に青年は別れむとして何か吃るも

                      中城ふみ子

  次々に別れ重ねてついにひとり雪とかすハンブルグ十二月の雨

                       高安国世

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春の雪