天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

身体の部分を詠むー舌(2/2)

  巴旦杏を食(は)みたる舌のくれないのひと恋しさは術(すべ)なかりしを

                      佐伯裕子

*巴旦杏: スモモの一品種。実は大形で先がとがる。

 

  鉛の毒に舌もつれおりて戦後を基地の塗装工たりしと聞けり

                      永塚恒夫

  夜のたたみ月明りして二人子はほのじろき舌見せ合ひ遊ぶ

                     小島ゆかり

*子供の舌がほの白く見えたのは、もちろん月明りのせい。

 

  眼をとじて耳をふさいで金星がどれだかわかったら舌で指せ

                      穂村 弘

*なんとも奇妙な情景だが、このような遊びがあるのか?

 

  薔薇一本剪らねば何も変はらなかつたのだろうか舌尖(した)がしびれる

                     兵頭なぎさ

*言い争いでもしていたのであろう。ものの勢いで薔薇を一本伐ってしまったようだ。

 

  口中にひらひら間なくひるがへる舌赤きゆゑわれは信ぜず

                      松阪 弘

*上句からは、二枚舌を想像させる。

 

  はなみづきぺりかんの嘴 ひとの舌ほどにひねたる進化にあらず

                      浜田昭則

  やはらかき舌に一語を遊ばせてあをきひねもすしぐれてゐたれ

                      大谷雅彦

*短歌を推敲して一語にこだわって一日中しんみりと過ごしたようだ。

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巴旦杏