天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

身体の部分を詠むー頬(2/2)

  噴上げの穂さき疾風(はやて)に吹きをれて頬うつ しびるるばかりに僕(しもべ)

                      塚本邦雄

  わが頬を打ちたるのちにわらわらと泣きたきごとき表情をせり

                      河野裕子

  わが頬に手をあてひと夜眠らざりし父あり父を忘れ眠らむ

                     犬飼志げの

*作者は父親も心配するような事情を抱えていたのだろう。心配してくれる父がいるので安心して眠れるのだ。

 

  意味もなく頬をふるようなありふれたパーティのそのどれもが好きさ

                      加藤治郎

  兆しもあらず近くとどろく春雷は苺をふふむ頬にひびけり

                     花山多佳子

  頬づゑの空なるおもひ支へつつ折れやすし半跏思惟像の指

                      山城一成

*木彫の半跏思惟像を見ての感想であろう。

 

  確実に頬をたたいたてのひらのあたたかそうなピンクがさめる

                      東條尚子

*相手の頬をたたいた掌をしばらく見つめていたようだ。

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半跏思惟像