天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

わが句集からー夏(13/ 14)

平成二十六年 「団栗」

    若葉してくぬぎ根を張る岩畳 

    本堂に足投げ出して涼みけり

    子と並びザリガニを釣る日傘かな

    紫陽花や孔雀啼く声恐ろしき

    梅雨晴れの入江をめぐるカヌーかな

    炎帝がからから笑ふ力石 

    汗ぬぐふ伏見稲荷の一の峯

    龍の吐く水に両腕冷しけり 

    泡とばす洗車の水の涼やかに 

    夕焼の空はすかいに五智如来

 

平成二十七年 「力石」          

    梅雨いまだ天竜をうるほさず

    涼風やうたたねに本すべり落ち 

    恐竜の模型が吼える夏休み 

    大花火窓辺の妻を影絵とし

    山の端に月かたぶきて花火終ふ 

    アオバトの群れきて飲むよ青葉潮

    三門の二階の涼し南禅寺        

 

平成二十八年 「延寿の鐘」         

    葉桜のおほひかむさる東司かな     

     落ちてなほかたちとどむる桐の花  

     溜池の水を田に引く蛙かな          

     鳩の屍や大暑の風に羽根散らし 

     炎帝が見下ろすふたつ力石 

     舞殿に横笛涼し八幡宮 

     夕立をあやぶむぼんぼり祭かな

     木洩れ陽は夕陽となりぬ夏木立 

     水ひけば川岸の草刈りはじむ 

 

平成二十九年 「古希の春」

    墓ならべ藤村夫妻蝉しぐれ

    頭に触れて風鈴鳴りぬ鴫立庵

    大輪の黄なるダリアに満ち足りぬ

    皮衣着て筍のたくましき 

    紫陽花やつるべに活けて井戸の端 

    孤高なる松の枝ぶり梅雨の空 

    紫陽花や鎌倉十井つるべの井 

    寝ころんで野球見てゐる夏座敷 

    バスを待つ炎暑のベンチ背を伸ばし 

    森ふかく山百合人を恋ふごとし

    洪水の引きて花火や大曲

    寄り添へば花火が照らす涙かな 

 

天竜