天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

歌まくらー西行の場合(1/7)

 このブログにおいて、2018年7月27日から2018年8月3日にわたって、「現代歌枕の発掘」と題して、現代短歌における歌枕につき考察している。

 本稿では、古典に立ち返って名所旧跡を中心とした歌枕の例を西行の和歌にみてみよう。情景や地名の取り上げ方の様々が分かる。『歌語例歌事典』聖文社から引く。

 

[衣川]岩手県胆沢郡南部を流れ北上川に注ぐ。『義経記』で有名。

  とりわきて心もしみて冴えぞわたる衣川見にきたるけふしも

[武隈の松]宮城県岩沼市竹駒神社付近にあった「二株の老松」。

  枯れにける松なき跡の武隈はみきと言ひても甲斐なかるべし

 *「みき」は三木、見きを掛けた。

[宮城野]宮城県宮城郡の平野。秋草とくに萩の名所。

  あはれいかに草葉の露のこぼるらむ秋風立ちぬ宮城野の原

最上川山形県中央部を流れ日本海に注ぐ。稲舟がよく詠みこまれた。

  最上川なべてひくらん稲舟のしばしがほどはいかりおろさん

白河の関福島県と栃木県の境に置かれた関所、奥州三関の一つ。

  白河の関屋を月のもる影は人の心をとむるなりけり

[堀兼の井]埼玉県狭山市掘兼の地。

  汲みて知る人もあらなむおのづから堀かねの井の底の心を

 *井戸なのに掘りかねる名への興味。

 

武隈の松