火事を詠む
火事に死にし少年文明(ふみあき)君の記事心にかかる四五のほど日
ほほゑみに肖てはるかなれ霜月の火事のなかなるピアノ一臺
燻製卵はるけき火事の香にみちて母がわれ生みたること恕(ゆる)す
じだらくにありしひと日の終末にかかわりもなき女湯の火事
岡部桂一郎
炎上のさかんなるとき青く透くしづかな炎隣家へ走る
三井ゆき
となり家の火事にもらいし火の中に盛りの薔薇が木ごと燃えいる
浜田康敬
火事消して帰り来たりし消防車疲れしもののごとくよごれて
浜田康敬
サイレンを鳴らして突走るのは爽快だろうな火事はどこだ
宮崎信義
仏壇から出火のはなしつじつまのあうニュースはおよそつまらなし
高瀬一誌
熟睡を忘れて幾夜ある夜は火事の炎の遠く変(へん)化(げ)す
小中英之
しゃりんしゃりん車輪の好きな子を連れて溶接工場の火事を見にいく
江戸 雪