鳥のうた(3/12)
けふもまた垣根のうばらつたひ来て霜ふむ鳥の跡はありけり
望月長孝
*うばら: とげのある植物のこと。いばら(茨)。
むらぎものこころたのしも春の日に鳥の群がり遊ぶを見れば
*むらぎもの: 「心」の枕詞。
たのしみは常に見なれぬ鳥の来て軒遠からぬ樹に鳴きしとき
橘 曙覧
ゆれなびく萩のたり枝のかすりゐる砂清くして小禽(ことり)の足あと
吉植庄亮
鳥一羽けしき音たてて歩きをり雨にあけたる浮(うき)桟橋(さんばし)を
石榑千亦
*けしき音: 騒々しい音。 雨にあけたる: 雨のうちにあけた朝
春の鳥な鳴きそ鳴きそあかあかと外(と)の面(も)の草に日の入る夕(ゆふべ)
野の鳥よ古(ふ)りし廂(ひさし)にうたひては父笑(ゑ)ましぬる朝もあるべし
窪田空穂
鳥のうた(2/12)
鳥ならばあたりの木々にかくれゐてほれたる声に我が泣かましを
古今和歌六帖・よみ人しらず
絵にかける鳥とも人を見てしがな同じところを常にとふべく
後撰集・本院侍従
*「絵に描いてある鳥であるとあの人を見たいものだ。同じ所(私の家)をいつも訪うように。」
夏刈(なつかり)の玉江の葦をふみしだき群れゐる鳥の立つ空ぞなき
後拾遺集・源 重之
夜をこめて鳥のそら音ははかるとも世に逢坂の関はゆるさじ
*そら音: 鳴きまね。 はかる: だます。 よに: 決して。
「夜がまだ明けないうちに、鶏の鳴き真似をして人をだまそうとしてもこの逢坂の関は決して許しませんよ。(だまそうとしても、決して逢いませんよ)。」
関の戸を鳥のそら音にはかれども有明の月はなほぞさしける
*鳥のそら音: 鶏の鳴き真似。
さだめなく鳥や鳴くらん秋の夜の月の光を思ひまがへて
*「鶏が落ち着きなく鳴いているのは、秋の夜の月光を夜明けと間違えているからだろうか。」
鳥のうた(1/12)
日本文学においては、鳥は花鳥風月として日本の自然美を形成する景物の一つである。
『万葉集』には、鵜、鶯、鶉、鴨、鴎、烏、雁、雉、鷺、鴫、鷹、千鳥、燕、鶴、鶏、鳰、雲雀、時鳥、都鳥、百舌鳥、山鳥、呼子鳥、鷲、鴛鴦などの具体的な鳥の名がみえ、ほかにも水鳥が多い。ただ『古今集』になると、種類も淘汰され、鶯、鶉、鴨、雁、雉、鴫、鶴、千鳥、鳰、時鳥、都鳥、鶏、鴛鴦と古今伝授(こきんでんじゅ)の「三鳥」の稲負鳥(いなおほせどり)、百ち鳥(ももちどり)、呼子鳥に尽くされる。
鳥の語源ははっきりしないが、朝鮮語「たる(鶏)」との説もある。(以上、百科事典より)
このシリーズでは、具体的な名前ではなく単に鳥として詠まれた作品のみをあげる。それにしても膨大な数がある。
古(いにしへ)に恋ふる鳥かも弓鉉(ゆづる)葉(は)の御井(みゐ)の上より鳴き渡り行く
*「昔を恋しく思う鳥だろうか、弓絃葉の御井の上を鳴きながら渡ってゆくよ。」
今(こ)の世にし楽しくあらば来(こ)む生(よ)には虫にも鳥にもわれはなりなむ
世間(よのなか)を憂しとやさしと思へども飛び立ちかねつ鳥にしあらねば
旅を詠む(4/6)
逃亡のごと北へむくわが旅の遥か来たりてまたある峠
西勝洋一
遠く来しもみぢの山にみづからの修羅見てめぐる 旅とはなに
畑 和子
*修羅: 醜い争いや果てしのない闘い、また激しい感情のあらわれなどのたとえ。
頼られてゐしいく年ぞ長き旅なし得ずすぎし悔には触れず
生方たつゑ
旅のをはりは命終(みやうじゆう)に似ん振れる手も地もたちまちに遠ざかりぬる
旅にあるわれを呼ばはず病み臥して何思ひしや梅雨の二夜を
三國玲子
旅すでに果てむとしつつ立待の月の赫きを共に言ひ出づ
馬場園枝
*立待の月: 立って待っている間に出る月という意味。陰暦17日の夜の月。特に、陰暦8月17日の月を指す。