俳句の背景
「俳壇」七月号にリレー競詠として三人の俳人の作品が載っているが、うち二人からそれぞれ気になる俳句を拾ってみよう。
倉橋羊村「風死しせり」より
月光と噴水落差ありぬべし
仕損じて滴り間合ひ狂ひたる
*これら二句いずれもよく理解できない。
イメージを結ばないのだ。
土間を出て頓狂走り羽抜鶏
*「頓狂走り」が面白い秀逸な措辞。
揺るる影竹落葉らし船障子
*作者は障子をたてた船の中にいて障子に映る影を
見ているのであろう。江戸趣味の漂う句である。
夜も緑なる山宿の鮎づくし
*石田波郷の句「プラタナス夜もみどりなる夏は来ぬ」
をすぐに思ってしまう。本歌取りといえようか。
小林貴子「炎帝」より
代掻きて鏡の国となりにけり
*これは文句なしに良い。いかにもまほろば大和であり
懐かしい風景である。
土の降る町を土の降る町を
*これは「雪の降る町を」という唱歌の変形である。
我は罪の子雛罌粟をもて埋めよ
*与謝晶子の歌を背景にしていることは見やすい。
くよくよとするより海鞘を噛んでみよ
*飯島晴子調である。「初霞琴弾く音を早うせよ」
「夏星やあるだけの鰭立てて来よ」
「しんめうに熟柿をすすりゐてくれよ」などを
思い起こす。