天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

古句の言い回し(1)

 俳句の元になった江戸時代の俳諧の発句に興味がある。それで『江戸俳諧にしひがし』に続いて、柴田宵曲という人の『古句を観る』(岩波文庫)を購入して読んでいる。元禄期の有名でない俳人達の佳句を取り出して鑑賞している本である。新年、春、夏、秋、冬 に分類してある。まだ新年と春の初めの部分を読んだだけだが、五七五の言い回しにいくつかのパターンがある。最も目に付くパターンは、初句あるいは中七の終わりに切れ字「や」そして座五が名詞あるいは体言 という型である。


     元朝やにこめく老のたて鏡
     蓬莱や日のさしかかる枕もと
     七くさやそこに有あふ板のきれ
     七草や拍子こたへて竹ばやし
     七種や茶漬に直す家ならひ
     遣羽子や子供に似せて親の前
     元日や一の秘蔵の無分別
     門松や黒き格子の一つづき
     母親や薺売子に見えがくれ
     元日やずいと延たる木々の枝
     七草や多賀の杓子のあら削り
     七種や八百屋が帳のつけはじめ
     犢鼻褌を腮にはさむや著そ始
     戸をさして枢の内や羽子の音
     蝋燭に帯のあふちや著そはじめ
     あら玉の文の返事やちらし書
     三方の海老の赤みや初日影
     蔵開き順に入るるや孫息子
     元朝にはくべき物や藁草履
     参宮の小幡どまりや明の春


新年の部には全部で三十九句あるが、その内にこんなにもあるのだ。他のパターンも追々とりあげていきたい。
 こうしたことの延長として、芭蕉全句のパターン分類、そして蕪村全句のパターン分類を実施し、その間の言い回しの発展を見てみたいのである。