うまいなあ!
「俳句研究」十二月号に、長谷川櫂の五十二句が載っている。うまいなあ、と感じる句を挙げて、どこがうまいかを簡単にコメントしておく。
初春や生きて伊勢えび桶の中
*「生きて」がなかなか出てこない。
万緑を押し開きゆく大河あり
*万緑を押し開くとは言いえて妙。
そばだてて何聴きをるや蟇
*何をそばだてるか明らかなので、冗長な言葉は省略。
短夜や白き波こそ隠れ岩
*言われて初めてうまい!と思う措辞である。
かの雲の峰のほとりに庵せん
*普通は、雲の峰を一語の季語として入れ込む。
が、この句では語割れにしている。
をどり入る樟の大樹や夜の秋
*盆踊りであろうか、樟の大樹の下に入っていく
人々がある。
籐椅子にゐて草深き思ひあり
*「草深き思ひ」が言い得て妙。言われて初めて
そうだと共感。
水蜜桃けさ青々と山河あり
*極小と大景。テーブルに置いた水蜜桃、その向こう
に青き山河。嗚呼。
秋風を漁(すなどり)りてこの大鮑
*この助詞「を」がなかなか出てこない。上五中七が
なんともゆかしい。
火の山の真赤な胎や秋の風
*火山の山頂から火口を覗き込んでいるようにも思えるが、
火山を横から見た想像の句。
花はみな冬の鴎となりて飛ぶ
*冬の鴎の飛ぶさまが桜の花の流れ散る
ように見えたのだ。