雨・風をテーマに
「歌壇」十二月号では、佐佐木幸綱が小島ゆかりと対談している。話題は、現代短歌の課題―2006年を振り返って である。区分すると十あまりのテーマで話が進んでいるが、今日はその紹介ではない。対談の初めに、小島が一年間、毎月三十首連載したが、続けるために一つの大きなテーマを設定した、といっている。ある雑誌では「雨」を、また別の雑誌では「風」をテーマにしたという。「歌壇」では、「折からの雨」という題名で一年間を詠み通した。もちろん三十首全部が雨を詠んでいるわけでなく、日常詠が多くを占める。今月号から、いくつかを挙げてみよう。
吾亦紅はくちびるを噛む赤さなりたたずむたびに降るちらさあめ
ちらさあめ(長野県) = 体に感じないほどの霧雨
こんな日は子として家に帰りたし大根摺の日暮れとなりぬ
大根摺(島根県)= 霙
抜降りののちの大きなまるい月 階下の人はどの向きに寝る
抜降り(富山県) = 土砂降り
といった調子である。
詩人の高橋順子と写真家の佐藤秀明の共著に、『雨の名前』、『風の名前』という本がある。小島は多分この類の本なり専門書を横において詠んだのであろう。もちろん題詠的にである。ひと月のうちに長野県、島根県、富山県に出かけて都合よくこうした雨に出会えるわけがない。
なかなか面白いアプローチである。