天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

日本語歌謡の特徴

 考えるほどに不思議な感じになるのだが、五七調、七五調は、わが国歌謡の基本的韻律である。記紀歌謡にはじまり、長歌、旋頭歌、短歌から現代の歌謡曲にいたるまで、この韻律が底流をなしている。まことに単純な規則がわが国の詩歌を支配していることが不思議なのである。


古事記』の最初に置かれた須佐之男の命の有名な歌
  八雲立つ 出雲八重垣。妻籠みに 八重垣作る。その八重垣を。
日本書紀』からの例。
  オキツモハ、ヘニハヨレドモ、サネトコモ、アタハヌカモヨ、
  ハマツチトリヨ。
万葉集』から柿本人麻呂の有名な長歌
  やすみしし わご大君の 聞し食す 天の下に 国はしも 
  多にあれども 
  山川の 清き河内と 御心を 吉野の国の 花散らふ 秋津の
  野辺に ・・・・・・ 滝の都は 見れど飽かぬかも
昭和十年代の歌謡曲から。
  山の淋しい湖に ひとり来たのも 悲しい心・・・・「湖畔の宿」
  赤い花なら 曼珠沙華 阿蘭陀屋敷に 雨が降る・・「長崎物語」
阿久 悠作詞の例から。
  お酒はぬるめの 燗がいい
  肴はあぶった イカでいい
  女は無口な ひとがいい
  灯りはぼんやり 灯りゃいい ・・・    「舟歌


 現代短歌についてそれぞれの例を見てみよう。今年の「歌壇」十月号から。
穂村 弘「旧札」から五七調の歌。
  てのひらに乗せた豆腐はばらばらに切れていたのか葉月夕闇
  陽炎に包まれながら一本足打法で打った蝉の抜け殻
  全身の整形手術で美しく生まれ変わったような夕映
  ローソンをはしごして得た水たちを抱えて渡る夜明けの鉄路
  留守番の時計が響くお茶の間の炬燵の上に急須が濡れて


梅内美華子「帰郷」から七五調の歌。
  積乱雲ボリューム上げてゆくこの世灼けたい人と焼かるる人と
  輪切りしてトマトに砂糖をかけて食ぶ母のこだはり信仰に似て
  鮎の骨まつげのやうに残りたり暮れざるうちに終へし夕餉に
  寝返れば仏間の白き花の影遠くて近い盆の夜々なり