富獄三十六景
北斎の天をうつ波なだれ落ちたちまち不二は
消えてけるかも
固有名詞「北斎」を入れた歌として、『雲母集』には他に次の二首がある。
北斎の蓑と笠とが時をりに投網ひろぐるふる雨の中
とま舟の苫はねのけて北斎の翁(おぢ)が顔出す秋の夕ぐれ
白秋が葛飾北斎に強い関心を抱いていたことの別の証として、同時期の詩集「白金之独楽」に、北斎と題する一編がある。
一心玲瓏
不二ノ山。
桶屋箍(たが)ウツ桶ノ中ニ
白金玲瓏
天ノ雪。
思ヒツメタル北斎ガ、
真実心ユエ、桶ノ中ニ
光リツメタル天ノ不二。
北斎思ヘバ身ガ痩スル、
これは、富嶽三十六景の内「尾州不二見原」通称「桶やの不二」のことを詠った詩である。