天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

白秋の『雲母集』(6)

桶屋の富士

富獄三十六景


  北斎の天をうつ波なだれ落ちたちまち不二は
  消えてけるかも


固有名詞「北斎」を入れた歌として、『雲母集』には他に次の二首がある。


  北斎の蓑と笠とが時をりに投網ひろぐるふる雨の中
  とま舟の苫はねのけて北斎の翁(おぢ)が顔出す秋の夕ぐれ


白秋が葛飾北斎に強い関心を抱いていたことの別の証として、同時期の詩集「白金之独楽」に、北斎と題する一編がある。


        一心玲瓏
        不二ノ山。

        桶屋箍(たが)ウツ桶ノ中ニ
        白金玲瓏
        天ノ雪。

        思ヒツメタル北斎ガ、
        真実心ユエ、桶ノ中ニ
        光リツメタル天ノ不二。

        北斎思ヘバ身ガ痩スル、


これは、富嶽三十六景の内「尾州不二見原」通称「桶やの不二」のことを詠った詩である。