天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

サヨリ

鎌倉腰越通りにて

 春の訪れを告げる魚で、ダツ目トビウオ亜科サヨリサヨリ属。漢字では、細魚、針魚をあてる。群れをなして、水面下を矢のごとく走る。トビウオと同様、危険が迫ると、尾びれで水面をたたき、跳躍して逃げる。
下顎は長く突き出している。この受け口でプランクトンを掬いとる。サヨリは、その美しい姿から、「海の貴婦人」とも呼ばれるが、腹を割いて内臓を取り出すと、腹の内側は真っ黒。「腹黒い人物」を指す例えになった。脂肪の少ない淡白な高級魚だが、鮮度落ちが早い。刺身、昆布じめ、椀だねなどで春の季節感を出す。


    青空の映れる水に針魚みゆ     長谷川 櫂


  作る田のなきは針魚を漁として今に貧しきこの能登の村
                     岡部文夫
  花は花鬱は鬱なるさくらどきわがおんじきの針魚かをりつ
                     雨宮雅子
  くちびるは柔らかきゆゑ罪深し針魚の銀の細身を好む
                     松平盟子
  喉白く五月のさより食みゐるはわれをこの世に送りし器
                     水原紫苑