天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

金魚

横須賀しょうぶ園にて

 フナの突然変異であるヒブナを観賞用に飼育、交配を重ねていったもので、原産地は中国。わが国には室町時代に輸入された。江戸時代から観賞用に多くの品種ができた。和金、琉金、出目金、珠文金、蘭鑄、オランダシシガシラなど。養殖地として、大和郡山市、愛知県弥富町、東京の江戸川などがよく知られている。
以下には、中城ふみ子全歌集『美しき独断』に載っている金魚の歌四首をあげておこう。


  わが内の脆き部分を揺り出でて鰭ながく泳ぐあかき金魚は
  見られつつ生きる金魚よ真正面より拡大さるる哀しみもあれ
  藻のごとき髪乾ききりそこに棲む金魚も鮒も死に絶えしなり
  硫金を黒人兵に買はせゐる爪紅き女の部屋は知らずも


四首目の「硫金」は「琉金」の誤記であろう。中城ふみ子の生涯を考慮に入れて鑑賞すれば、荒んだ心情が反映されているように感じる。


  日はしづかに屋上にあり水盤に金魚の鰭のうごきかそけき
                    太田水穂
  なかなかにとぼけのすべも覚ええず老いおくれいて金魚みている
                    加藤克己
  金魚など机に泳がせ少女ひとり履歴書かきゐるは美しきかな
                    加藤克己
  ひらひらと猫が金魚の水呑めりその舌先にまつはる金魚
                    岡山たづ子
  いくばくか死より立ち直るさま見をり金魚を塩の水に放ちて
                    尾崎左永子
  おそろしきもののはじめと誰か言ひ月光の桶にゆらぐ蘭鑄
                    苑 翠子