小池光の短歌―ユーモア(26/26)
◆同音異語(同音の別文字に転化)
さなきだに壁蝨(だに)に蛹(さなぎ)はあるものか闇の障子をわが打ち破る
『日々の思い出』
「おい止まれ、どこへ行く」「ちと浅草へ」春はあけぼのSuicaは
誰何(すいか) 『滴滴集』
敷物のうへに落ちたる墨汁の乾坤一滴はみるみる染みつ
『時のめぐりに』
◆似通った押韻の異なる言葉の取り合わせ
野分たつなかに揺れをり表札の木の「石動(いするぎ)」のゆきづりの家
『草の庭』
苔のうへにこもれびの日が差すところ腹ばひゐたり猫のすがたに
『静物』
唐九郎転じてどくろとなりぬるともののはづみにわれ言はむとす
『山鳩集』
あんぱんの臍(へそ)を発明したる人円満なる晩年を送りたりけむ
『梨の花』
金之助といへる金魚を飼ふひとと新年会にて挨拶かはす
◆[動詞+こと]で名詞句+を+し+て
法国梧桐(プラタナス)の木の実をひろふことをして南苑機場にひとときを待つ
『草の庭』
◆掛詞
哀愁のサランラップにつつまれて地下なる街にひとら降りゆく
『日々の思い出』