夏の風(1)
雨や風の種類を細かく区別して名付けている国は他にないであろう。先ずは一般的な「夏の風」、及び古歌の「涼しき風」を詠んだ和歌から取り上げる。
夏と秋とゆきかふ空のかよひぢはかたへすずしき風や吹くらむ
古今集・凡河内躬恒
窓近きいささむら竹風吹けば秋に驚く夏の夜の夢
新古今集・藤原公継
船よするあまの河辺のゆふ暮はすずしき風やふきわたるらん
西行
行きなやむ牛の歩みに立つ塵の風さへあつき夏の小車(をぐるま)
玉葉集・藤原定家
水無月のあつき盛りは草の葉のゆるぐばかりの風の乏(とも)しき
小沢蘆庵
夏のかぜ山よりきたり三百の牧の若馬耳ふかれけり
与謝野晶子
涼風の俳句もあげておこう。
涼風やほの三か月の羽黒山 芭蕉
涼風の曲りくねつて来たりけり 一茶
涼風や老師敬ふ弟子二人 深見けん二
涼風の一楽章を眠りたり 矢島渚男