天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

落葉(1)

湯河原万葉公園にて

 散り落ちた葉、特に晩秋から冬にかけて散る落葉樹の葉、と「広辞苑」にある。時雨のようにぱらぱら散る「木の葉しぐれ」。落葉の散りつくす様が「落葉終る」。落葉林、落葉山などもある。文学では、落葉にいろいろな感情を託すことが多いが、和歌や短歌では、わりと情景描写が多いようだ。


     手ざはりも紙子の音の落葉かな   許六
     吹き上げて塔より上の落葉かな  夏目漱石


  飛鳥川もみち葉流る葛城の山の木の葉は今し散るらし
                 万葉集・作者不詳
  降る音も袖のぬるるもかはらぬを木の葉しぐれと誰か
  わきけむ               藤原俊成


  かぎりあれば信夫(しのぶ)の山のふもとにも落葉がうへの
  露ぞいろづく        新古今集・源 通光


  色やただこきもうすきもはてはては同じ落葉に木枯の風
                     細川幽斎
  ひとときに落つる落葉の音きこえまたしづかなる夜半の
  過ぎ行き              柴生田 稔


  落葉して明るき森を歩みくる馬の素直なる顔におどろく
                     大野誠
  掃き寄せし落葉をもとへ吹き散らす風憎みつつまた掃き
  はじむ                筏井嘉一


  かき集め火を放たねばいつまでも落葉は路上を走りて
  をらむ                稲葉京子


  ひとすじの水に遅速の見えながら水の上の落葉水の底の
  落葉                 永田和宏


  たとへば君 ガサッと落葉すくふやうに私をさらつて行つ
  てはくれぬか             河野裕子


  ひそやかに去りひそやかに来しもののほのかに見えて落葉
  始まる                大下一真