月(1)
東洋人の詩情を刺激する代表的な自然の景物が雪月花である。月が象徴するものは、西洋と日本とではかなり異なるようである。民族によって真反対のものを象徴することがあるので、とまどってしまう。幸いなことにわが国では、万葉集の時代から現代までほぼ共通した月の詩情が流れている。代表的な和歌集について月の歌を見てゆくことにしよう。万葉集では恋の仲立ちをするようだ。
北山にたなびく雲の青雲の星離(さか)り行き月を離りて
万葉集・持統天皇
春日山おして照らせるこの月は妹が庭にも清(さや)けかりけり
万葉集・作者未詳
月かさねわが思ふ妹に逢へる夜は今し七夜を続ぎこせぬかも
万葉集・作者未詳
さ男鹿の妻どふ時に月を良(よ)み雁が音聞ゆ今し来らしも
万葉集・作者未詳
わが故に思ひな痩せそ秋風の吹かむその月逢はむものゆゑ
万葉集・作者未詳
山の端にさし出づる月のはつはつに妹をそ見つる恋しきまでに
万葉集・柿本人麿歌集