天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

月(5)

NHK新日本風土記「月の夜」から

 新古今集になると、唯美的・幻想的・絵画的・象徴的・技巧的な面から月が詠まれる。題詠により複雑に工夫された象徴的な歌が工夫され、本歌取りや余韻・余情をかきたてる体言止め、七五調の初句切れ・三句切れなどが特徴になる。


  重ねても涼しかりけり 夏衣 うすき袂に宿る月影
                 新古今集・藤原良経
  行く末は空もひとつの武蔵野に草の原よりいづる月影
                 新古今集・藤原良経
  独りぬる山鳥の尾のしだり尾に霜おきまよふ床の月影
                 新古今集藤原定家
  霜を待つ籬の菊の宵の間におきまよふ色は山の端の月
                  新古今集宮内卿
  照りもせず曇りも果てぬ春の夜の 朧月夜にしくものぞなき
                 新古今集大江千里
  ひとめ見し野辺の気色はうら枯れて露のよすがにやどる月かな
                   新古今集・寂蓮